令和6年能登半島地震により亡くなられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災されました皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
今回の地震により、北陸電力(株)志賀原子力発電所の一部の設備等が影響を受けたものの、安全を確保するための「止める・冷やす・閉じ込める」の機能は維持されていました。
しかしながら、原子力産業界としては、その事実に留まることなく、今回発生した事象から知見を得て、原子力発電所のさらなる安全性向上に向けた取り組みを進めることが重要であると考えております。
ATENAでは、地震・津波、発電所設備の各分野において、専門家からなる体制(原子力事業者・メーカ・研究機関)を構築し、検討を行っております(概要は下表のとおり)。
検討内容については、随時公表してまいります。
検討項目 |
発生した事象 |
検討内容(例) |
地震・津波 |
活断層・地盤 | 断層評価及び地盤変動評価への影響の有無 |
地震動 | 地震動評価への影響の有無 | |
津波 | 津波評価への影響の有無 | |
発電所設備 |
変圧器故障 |
外部電源系の信頼性向上のための方策(e.g. 早期復旧のための方策) |
非常用ディーゼル発電機試運転中停止 |
所内電源構成を踏まえた試運転時の留意事項 |
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その他(構内道路段差など) |
このたび、各分野においてこれまでに検証した内容が取り纏まりましたので、お知らせいたします。
<主な検証内容>
◆地震・津波
地震・津波分野については、能登半島地震に係る学会、各大学、国の研究機関の調査、研究結果の最新情報を幅広く収集し、従前の地震動・津波評価への影響を確認した結果、以下のとおり、現時点では地震動・津波評価の見直しを要する情報は確認されていません。
今後も、自主的に各種研究機関の分析・評価等の情報収集を継続してまいります。
検討状況 |
対応方針 |
【活断層・地盤】 ◇能登半島地震の余震域の分布と従来から想定されている活断層の分布が整合していることから、今回地震を起こした活断層の分布は、各種機関の調査で事前に想定されていたもの。 ◇ただし、活断層の連動のメカニズム等については、今後の各種研究機関の分析・評価の成果が待たれる。 ◇今回の地震規模と平均すべり量の関係は従前の評価式と整合的である。なお、地盤隆起については、新規制基準適合性審査にて発電所敷地が大きく隆起することはないことを確認し、その影響は各サイトで設計上考慮済みである。 |
◇現時点において、従前の地震動・津波評価と整合しており、原子力発電所の地震動・津波評価の見直しを要する喫緊の課題なし。 ◇活断層の連動のメカニズム等については、今後も各種研究機関の分析・評価等の情報収集を継続する。 ◇今後、得られた知見については、各サイトの地域特性も考慮の上、必要に応じ地震動・津波評価への反映を検討する。 ◇なお、万が一の場合を考慮し、能登半島地震によって発生した地盤隆起(石川県輪島市)と同様、4mの地盤隆起発生を仮定し、各社、机上検討にて代替取水箇所で取水可能であることを確認した。現在、実動訓練にてその有効性を確認している。(第16回原子力事業者防災訓練報告会資料を参照) |
【地震動、津波】 ◇今回確認された地震観測記録は、既存の距離減衰式(経験式)との比較より、これまでに経験してきた内陸地殻内地震の特徴と概ね整合する。 ◇今回の津波痕跡高の調査結果(概ね5m以下)は、能登半島地震発生前に想定されていた津波想定高さ(5m~10m)を下回っている。また、津波評価における波源モデルについては、既往知見に基づき概ね評価できる。 ◇今回の地震に関し、「波力」、「黒い津波」、「津波漂流物」に関する研究報告は現段階ではみられない。 |
◆発電所設備
北陸電力(株)志賀原子力発電所で発生した設備の故障・不具合について、さらなる安全性向上に資するための対策について検討を行いました。
その結果、変圧器、非常用ディーゼル発電機(D/G)、使用済燃料貯蔵プール(SFP)および制御棒駆動機構(CRD)ハウジング支持金具について、以下のとおり対応方針を取り纏めました。なお、その他の設備で発生した事象(構内道路段差など)については、検討の結果、特段の知見は抽出されず、新たな対策は不要と判断しました。
この度、ATENAは、以下の安全対策の実施について事業者に要求しました。今後、事業者における安全対策の実施状況を確認・公開します。
検討結果 |
対応方針 |
【変圧器】 ◇志賀1号機起動変圧器及び志賀2号機主変圧器について、付属部の配管が損傷し、絶縁油が漏えいした。また、いずれの変圧器も放圧板が動作した。 ◇変圧器は耐震Cクラス機器の設計に用いられるものを上回る加速度を考慮し設計していたが、志賀では実際の応答加速度がそれを超えたことにより、配管損傷に至ったものである。しかしながら、外部電源の全喪失は回避できた(5回線中3回線健全)ことから、外部電源系統の多重性が地震に対しても有効であることを改めて認識した。 ◇志賀2号機主変圧器は、配管損傷による絶縁油の漏えいによって、内部の油面が低下し、絶縁破壊により内部損傷に至った。内部損傷が発生した場合、部品調達、補修に長期間を要する。外部電源の信頼性が低下した状態が長期化することは望ましくないことから、変圧器の内部損傷を防止する取組みが重要。 |
◇機能喪失の長期化回避の観点から、絶縁油漏えい時の変圧器停止手順を整備する。 ◇放圧板動作時の早期復旧対策(予備品確保等)を実施する。 |
【非常用ディーゼル発電機(D/G)】 ◇D/G試運転のため、並列操作を実施していたところ、自動停止した。 ◇今回の事象は、試運転中であったことから原子力安全への影響はなかったが、D/G不待機期間ならびに設備ストレスの観点から、意図しない自動停止を低減することが重要。 |
◇D/G並列時自動停止の主要因となる運転操作に焦点をあて、志賀の事象のみならず、他社の自動停止事象を調査し、系統への並列時における操作手順を明確にするなど、より確実な運転操作に資する手順を反映する。) |
【使用済燃料貯蔵プール(SFP)】 ◇志賀2号機SFP内に保管してあった検査装置の一部がプール底部に落下した。 ◇SFP内保管物品について、落下により燃料破損等の直接的な影響がない軽量の物品であっても、燃料への異物混入防止の観点から、燃料へ異物が混入する可能性を低減することが重要。 |
◇志賀で落下したSFP内保管物品と同様な構造の機器類の有無を確認するため、SFP廻りの現場確認を実施する。 |
【制御棒駆動機構(CRD)ハウジング支持金具】 ◇志賀1号機CRDハウジング支持金具の構成部品の一部が脱落した。 ◇落下した構成部品がルースパーツになるリスクや下部にある機器を破損させる等の影響が考えられるため、構成部品の落下を防止することが重要。 ◇BWRのうち、一部のプラントでは、構成部品の端部がフラットでサポートブロックに乗っているだけであり、地震で脱落する可能性があることを確認。 |
◇据付管理や構造の見直し等により構成部品が脱落しない対策を実施する。 |